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札幌家庭裁判所 昭和58年(家)4288号 審判

申立人 高橋友子

主文

申立人の氏「高橋」を「イデ」に変更することを許可する。

理由

一  申立の趣旨

主文同旨の審判を求める。

二  申立の実情

1  申立人は、昭和五〇年五月三〇日国籍アメリカ合衆国(アイオア州)ロバート・マイケル・イデ(西暦一九四七年四月一一日生)と婚姻した。

2  申立人は、婚姻当時幼稚園教諭として稼働していたが、婚姻後職場や日常生活の場において、自己の氏を夫の氏である「イデ」を称し今日に至つているもので、通称の氏と戸籍上の氏が異なることにより、日常生活の上でなにかと支障をきたしている。

3  申立人及びその夫ロバート・マイケル・イデは、昭和五八年四月二〇日、未成年者亜梨紗(昭和五七年九月二四日生)と養子縁組をなし、同児を監護養育しているが、養父母の氏が異なるため、なにかと不都合である。

4  よつて、申立人の氏「高橋」を「イデ」に変更することの許可を求め本申立に及ぶ。

三  当裁判所の判断

1  本件記録中の戸籍謄本、外国人登録証明書及び記録添付の各資料並びに当裁判所の申立人本人に対する審問の結果によれば、申立の実情記載の各事実が認められる。

2  上記認定事実によれば、申立人は、アメリカ合衆国を国籍とする夫と婚姻しており、このように外国人の夫と婚姻した日本人の妻がどのような氏を称するかは、婚姻の効力として法例一四条により夫の本国法によるべきものと解されるところ、申立人が上記婚姻によりどのような氏を称するかは、夫の本国法であるアメリカ合衆国アイオア州の法律により定まることとなる。

ところで、アメリカ合衆国の各州法によれば、通常、妻は婚姻によつて夫の氏を称することになつていて、アイオア州法においても同様と思料され、申立人は、夫の氏を称すべきものと推認される。

ところが、我が国の戸籍事務の取扱いは、日本人の妻が外国人の夫と婚姻した場合であつても、国籍の変動はないから、従来の戸籍に在籍したままで、その戸籍の身分事項欄に外国人の夫と婚姻した旨が記載されるのみで、かかる夫婦につき、独立の新たな戸籍が編製されるものではなく、また、その妻が外国人である夫の氏を称する場合であつても、日本人である妻が従前称している民法上の氏に変更はない。従つて、申立人は、夫の本国法によつて夫の氏を称すべき場合であつても、婚姻前の氏「高橋」を称せざるをえないことになる。

3  しかしながら、本件申立人のように、婚姻後八年余にわたつて、一貫して夫の氏「イデ」を使用し、それが社会的にも定着していると認められるのに、今後も申立人に対し戸籍上の氏「高橋」の呼称を強いることは酷であつて、現にそのことが申立人の日常生活の上で種々支障をきたしていることは前記認定のとおりであり、このことは、戸籍法一〇七条一項所定の氏の変更するにやむをえない事由に該当するものと認められるので、本件申立を認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 照屋常信)

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